「試用期間開始から14日以内ならドライバーを解雇できる」は誤りです

「試用期間開始から14日以内のドライバーなら自由に解雇できるんですよね?」

これは社労士が経営者からいただく定番の質問ですが、答えはNOです。

試用期間でも雇用契約は成立していますので、会社が雇用契約を一方的に破棄すれば、14日以内だろうが何だろうが解雇です。

日本では解雇が非常に厳しく制限されていますので、「協調性がない」「人間性に問題がある」といった安易な理由で解雇すれば、裁判で無効とされてしまいます。

労働基準法には、試用期間開始から14日以内に従業員を解雇するときは解雇予告が不要となる、つまり即時解雇ができるという規定があります。

しかし、これは解雇予告に関する規定であって、「14日以内なら自由に解雇できる」とはどこにも書いてありません。

「14日以内なら即時解雇できる」という規定の意味が、いつの間にか「14日以内なら自由に解雇できる」と誤解されて広まってしまったのでしょう。

「試用期間」という言葉からは「採用のお試し期間」というような印象を受けますが、実際はそのような都合のいいものではありません。

試用期間中は本採用後と比べて、解雇のハードルが少し低くなります。

言い方を変えると、労働契約の解消にかかる会社の裁量が広くなります。

では、どの程度の事情があれば本採用の拒否が認められるのでしょうか?

線引きは非常に難しいのですが、参考になる裁判例を一つご紹介します。

2か月間の試用期間中の従業員に対して、出勤率不足を理由に本採用を拒否したケースです。

この従業員は早退や欠勤が多く、無断欠勤もありました。

しかし出勤率は8割を超えていたことから、労働者側は解雇は違法と主張していました。

裁判所はこの本採用拒否を正当なものと判断しました。

もしこの社員が正社員だったらどうでしょうか?

出勤率が8割を超えている以上、出勤率不足を理由とした解雇は困難だったと思われます。

このように、試用期間における解雇のハードルは本採用後と比べれば少しだけ下がります。

ただ、もともと日本の解雇規制は非常に厳しいので、試用期間中だからといって簡単に解雇が認められるわけではありません。

不当解雇の問題で裁判所がチェックするのは、「従業員はどのような働きを期待されて入社したのか?」「従業員の実際の働きはどうだったのか?」「会社は指導や配置転換など解雇を避けるための努力をしたのか?」といった点です。

たとえば新卒の総合職を試用期間で切ったらどうでしょうか?

「もっとじっくり育てないとダメですよ」「若いんだから、指導とか配置転換とか、いくらでもやり方があったでしょう」という理屈で違法とされてしまうわけです。

では、トラックドライバーはどうでしょうか?

ドライバーは経験者がほとんどですし、業務内容もドライバーと指定されていると思います(雇用契約書を確認しましょう。)

最低限の基本的な業務ができないのに「ドライバーとして一人前になるまで会社が面倒みなさいね」とか、「ドライバーができないなら事務仕事をやらせたらどうですか?」などと言われても困るわけです。

ですので、試用期間中に指導をしてもドライバーとしての業務を遂行できないなら解雇(本採用拒否)が認められる余地は大いにあると思います。

ただし、指導の記録は書面に残しておき、手続きはくれぐれも慎重に進めましょう。

このように、試用期間中は本採用後と比べると解雇のハードルが低くなります。

そこで、能力に疑いを持ったらすぐに本採用せず試用期間を延長しましょう。

試用期間を延長するためには、原則として就業規則に根拠となる定めが必要です。

自社の就業規則に試用期間の延長に関する定めがない場合には顧問の社労士や弁護士に相談することをおすすめします。

ちなみにトラック協会の『わかりやすいモデル就業規則』には試用期間の短縮に関する定めはありますが、延長に関する定めがありません。

この件に限らず、雛形は労働者側に有利になっていることが多くそのまま使っているとリスクが大きいので注意しましょう。

試用期間を延長するときには、元の期間と含めて長期間になりすぎないようにする必要があります。

試用期間は3か月程度としている会社が多いと思いますが、延長後を含めて6か月程度が妥当でしょう。

試用期間を延長し、指導を繰り返しても依然として改善がみられない場合には解雇が認められやすくなります。

試用期間を延長する際は本人に理由をしっかり説明すること、延長後も指導の記録を残すことを心がけましょう。

最後に、試用期間中の解雇に関する私の考えをまとめます。

では、問題のある従業員でも本採用するしかないのでしょうか?

私の答えはNOです。

本採用すれば解雇はなおさら難しくなり、顧客とのトラブルや他の従業員の離職など、さらに大きな問題に繋がるおそれがあります。

そうなれば会社の損失はより大きくなるでしょう。

この件に限らず、労務問題は法律の視点と経営の視点の両面から見て判断する必要があります。

「リスクがあるから避けた方がいい」とアドバイスするのは簡単ですが、リスクを踏まえた上で、経営判断として解雇を決断しなければならない場面はあると思います。

また、現実的には試用期間中の解雇がトラブルに発展することはあまり多くありません。

理由は次の2つです。

(1) 従業員側も「試用期間だから仕方ない」と思ってくれることが多い

(2) 雇用期間が短いので、未払い残業代など他の問題とセットで揉めることが少ない

ただし、解雇するときには以下の点に注意が必要です。

(1) 社労士などの専門家からアドバイスを受ける

(2) 試用期間中の問題行動には適切な指導を行い、記録に残す

(3) 試用期間中に見極めができないときは試用期間の延長を行う

(4) 解雇を通告するときは相手の心情への配慮を忘れない

それでも揉めるときには揉めます。

争われた後は弁護士の専門領域ですので、弁護士に相談することをおすすめします。

私は法律事務所出身ですので、いざというときは弁護士と連携してワンストップで問題を解決することができます。

お困りのときは是非ご相談ください。

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