退職する従業員に競業避止義務を課すことはできる?

内部情報の流失を防ぐために、競業企業への転職や同業種での起業を禁止することは可能ですか?

可能ですが、内容に注意が必要です。

会社が従業員の競業行為を禁止することを「競業避止義務」といいます。

会社が従業員に競業避止義務を課すためには、まず、雇用契約締結時や退職時に誓約書や契約書を交わして従業員の同意を得るか、就業規則に根拠となる規定がある必要があります。

具体的には次のような定めが必要です。

誓約書の例

(競業避止義務)
第○○条 従業員は在職中及び退職後6ヶ月間、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を営むことを禁止する。ただし、会社が従業員と個別に競業避止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする。

就業規則の規定例

貴社を退職するにあたり、退職後1年間、貴社からの許諾がない限り、次の行為をしないことを誓約いたします。
1)貴社で従事した○○の開発に係る職務を通じて得た経験や知見が貴社にとって重要な企業秘密ないしノウハウであることに鑑み、当該開発及びこれに類する開発に係る職務を、貴社の競合他社(競業する新会社を設立した場合にはこれを含む。以下、同じ。)において行いません。
2)貴社で従事した○○に係る開発及びこれに類する開発に係る職務を、貴社の競合他社から契約の形態を問わず、受注ないし請け負うことはいたしません。

内容の合理性

競業避止義務は憲法が保障する職業選択の自由を一部制約するものです。
したがって、限定的な運用であることが求められ、無制限に設定することはできません。

競業避止義務の内容は合理的な範囲内に留まることが求められ、そうでない場合は権利の乱用として無効となります。

競業避止義務の有効性判断の枠組み

判例上、競業避止義務契約の有効性を判断する際にポイントとなるのは、「守るべき企業の利益があるかどうか」です。

これを踏まえつつ、競業避止義務契約の内容が目的に照らして合理的な範囲に留まっているかという観点から、以下のような項目を考慮します。
「従業員の地位」
「地域的な限定があるか」
「競業避止義務の存続期間」
「禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか」
「代償措置が講じられているか」

つまり、守るべき企業の利益や従業員の地位と、従業員に対して課す制約の範囲がバランスの取れたものでなければなりません。

たとえば重要な営業秘密を知る幹部職員に対して、退職から1年間、同一市内の同業企業に転職することを禁止することは認められるでしょう。

他方で、営業秘密性が低い一般の従業員に対して競業避止義務を課したり、期間や地域を限定しないなど、合理的な範囲を超えて義務を課すことは認められない可能性が高いと考えられます。

まとめ

競業避止義務契約締結に際して最初に考慮すべきポイント

・企業側に営業秘密等の守るべき利益が存在する。
・上記守るべき利益に関係していた業務を行っていた従業員等特定の者が対象。

競業避止義務契約の有効性が認められる可能性が高い規定のポイント

・競業避止義務期間が1年以内となっている。
・禁止行為の範囲につき、業務内容や職種等によって限定を行っている。
・代償措置(高額な賃金など「みなし代償措置」といえるものを含む)が設定されてい る。

有効性が認められない可能性が高い規定のポイント

・業務内容等から競業避止義務が不要である従業員と契約している。
・職業選択の自由を阻害するような広汎な地理的制限をかけている。
・競業避止義務期間が2年超となっている。
・禁止行為の範囲が、一般的・抽象的な文言となっている。
・代償措置が設定されていない。

労働法との関係におけるポイント

・就業規則に規定する場合については、個別契約による場合がある旨を規定しておく。
・当該就業規則について、入社時の「就業規則を遵守します」等といった誓約書を通じ て従業員の包括同意を得るとともに、十分な周知を行う。

なお、競業企業への転職に際して、営業秘密の漏洩、従業員の引き抜き、顧客の奪取などが行われることも少なくありません。
このような場合、不正競争防止法が問題となる可能性があります。

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