トラックドライバーが同じ地域にある他の運送会社に転職しました。
できれば退職金を支払いたくないと考えていますが、同業他社への転職を理由に退職金を減額する、または不支給とすることは可能でしょうか?
よほど悪質なケースでない限り、難しいと考えられます。
退職金の性質
退職金は、「賃金の後払いとしての性格」と「功労報償的性格」の2つを併せ持っているとされています。
つまり「本来であれば毎月の賃金として支払うべきだったお金を退職時にまとめて払う」という要素と、「長年の貢献に対するお礼として払う」という要素とがあるわけです。
会社に対する背信的な行為が行われた場合、後者の「長年の貢献に対するお礼」という要素は減殺する、つまり目減りすると考えてよいでしょう。
そのような理屈から、たとえば会社のお金を横領して懲戒解雇したようなケースで退職金を減額することは可能だとされています。
ただし、就業規則に次のような根拠規定があることが前提です。
第○条(退職金の減額又は不支給)
就業規則○条の規定により、所轄の労働基準監督署長の認定を受けて懲戒解雇された者には、この規程による退職金を支給しない。ただし、情状によって支給額を減じて支給することがある。
過去の裁判例に、広告代理店の営業社員が同業他社に転職した事案において、退職金の2分の1のみを支給するとの就業規則上の定めが、同手当の功労報償的性格に照らして有効とされた事案(三晃社事件)があります。
同業他社への転職の場合は?
では、同業他社への転職の場合はどうでしょうか?
退職金の減額は従業員にとって大きな不利益なので、「競合他社への転職」という行為の背信性の程度とのバランスがとれているかが問題となります。
減額の率や行為の悪質性にもよりますが、一般のドライバーに競業避止義務を課すことはそもそも無効とされる可能性が高く、したがって退職金の減額も違法となると考えられます。
過去の裁判例に、広告代理業において、退職後6か月以内に同業他社に就職した場合は退職金を支給しないとの就業規則の規定は、顕著な背信性ある同業他社への就職についてのみ適用されるとして、その適用を否定した事案(中部日本広告社事件)があります。
例外的に減額が認められる悪質なケースとして、会社在籍中に秘密裏に大量の従業員の引き抜き行為を行い、その後に同じ地域で自ら運送会社を立ち上げた場合などが考えられるでしょう。