2020年に、民法改正に伴う措置として賃金債権の消滅時効が「2年」から「3年」に延長されました。
これが何を意味するかご存じでしょうか?
一例として、雇い入れから5年間ずっと残業代が支払われていなかったドライバーから、5年分の未払い残業代を請求されたケースを考えてみましょう。
5年分請求されたからといって全て支払わなければならないわけではなく、時効で消滅している期間がないか確認する必要があります。
改正前であれば、3年分は時効で消滅しているので、直近の2年分だけ支払えれば足りました。
ところが、現在は時効で消滅するのは2年分だけで、3年分の支払い義務が残ります。
つまり単純計算で、従業員に支払わなければならない額が1.5倍になったということです。
実は民法の原則では消滅時効は5年とされており、今回の法改正でも2年から5年にすべきという議論がありました。
それが経済界からの反対でとりあえず3年とされたのでます。
つまり、今後3年から5年にさらに延長される可能性も大いにあります。
最近は2024年問題にばかり焦点が当てられていますが、消滅時効の延長も非常に影響が大きい法改正です。
このように、賃金の未払いのリスクは年々大きくなっています。
ここで皆さんにご注意いただきたいことがあります。
ドライバーから未払い賃金を請求されたとき、「残業代は払いますから待ってください」「支払いの義務があることはわかっています」などの発言は絶対にしないでください。
消滅時効の効力を生じさせるためには、「消滅時効の援用」という意思表示が必要です。
この意思表示をするためには、内容証明郵便を1通送ればOKです。
ところが「払います」と言ってしまうと「時効の承認」と取られ、消滅時効の援用ができなくなってしまうことがあります。
そうなれば直近3年分だけでなく、消滅時効にかかっている分まで支払わなければならなくなります。
相手方から「払わないといけないことはわかっていますよね?」などと言われても安易に回答してはいけません。
「社労士に相談していますのでしばらくお待ちください」といったように、回答を保留するようにしてください。