トラックドライバーから荷下ろし作業中に怪我をしたと申告がありました。
しかし、事故の現場を誰も見ておらず、本人の申告のほかに事故が起こったことを示す証拠がありません。
このようなケースでも労災として認めなければならないでしょうか?
労災の請求書には、事業主が事故発生の事実を証明する「事業主証明」の項目があります。
事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならないと定められており、事故発生の事実に疑いがないのであれば、事業主証明を行わなければなりません。(労災保険法施行規則23条2項)。
もっとも、ご質問のケースのように事故発生の事実を証明できないことはよくあります。
この場合、そもそも証明できないことになりますので、基本的には事業主証明は避けた方がよいでしょう。
事業主証明を拒否すると、前述の協力義務に反するのではないかと思われるかもしれませんが、判例では、事業主が労災の該当性を争っているときにまで事業主証明をする義務はないとされています。
また、事業主は、労災の請求について、労働基準監督署長に意見を申し出ることができるとされています(労災保険法施行規則第23条の2)。
そこで、事業主証明を行わず、その理由を書面で労基署に説明する方法があります。
労基署に提出する書面について決められた様式はありませんが、記載すべき事項が労災保険法施行規則に定められています。
もっとも、事故の瞬間をたまたま誰も見ていなかった、ということは珍しいことではありません。
事故直後に労働者本人が報告を行っていて、その内容に矛盾がなく、怪我の状況とも整合していれば、事故が起こったものとして事業主証明を行ってもよいでしょう。
ただし、証明できない事実について事業主証明を行うと、場合によっては不正な請求に加担することになりかねませんので、事故を現認した者がいないことを書面で労基署に説明しておくことをお勧めします。